風原は嫌な予感がしていた。ふと隣にいる幸村に話し掛ける。
「ねぇゆっきー、シモヒラ大丈夫だよねぇ?」
一瞬何のことだか分からない幸村は、
「何が?」と聞き返す。
「シモヒラ、何か変じゃない?」
はて、と思い、幸村は霜片に目をやる。そこにはいかにも自信のなさそうな霜片が立っていた。
「いつものシモヒラじゃん。」
「でも、元気なさそうだよ。」
「いつものシモヒラじゃん。」
「いかにも自信なさそうだし・・・。」
「いつものシモヒラじゃん。」
「・・・それに疲れているのか、目が虚ろだし・・・。」
「いつものシモヒラじゃん。」
「・・・。」
何を聞いても同じ台詞で返してくる幸村を見て、風原は溜め息をついた。
さすがにその溜め息に反応したのか、幸村はこう声をかけてやる。
「大丈夫だよおぢいちゃん。シモヒラのことだから、原チャにまたがっちゃえば性格変わるって。」
実際そうだった。
「では次ぃ、霜片さんの番で〜す!」
石川島の声が辺りに響く。
仕方ない、という気持ちで原チャに乗ろうとしている霜片だったが、いざエンジンをかけると、表情が一変した。
殺気立った眼光。
ブキミに光るメガネ。
その異様な雰囲気に、ギャラリーは思わず注目する。
風原も口を開け、唖然とする。
「だから言ったろ、おぢいちゃん。」
それを知っていた幸村は、ひとり得意げであった。
そして当の本人、霜片は、周りに人がいるということを既に忘れ、『ライダー』に変身していた(ちなみにカマキリのようなメットは、残念ながら被っていない)。
霜片の気迫はスタートのその瞬間に最高潮に達していた。
「Go!」
石川島の合図が出た。
その瞬間、信じられないような加速で、1台の原チャが姿を消していく。
焦ったのは朝霞だった。
まさか原チャごときにこれほどのスタートダッシュをされるとは思っていなかったからである。
この瞬間、朝霞のバーサーカースイッチが入った。
『白い異邦人』覚醒の瞬間である。