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直線を快調に霜片は飛ばす。
『白い異邦人』のスピードメーターは、余裕で原動機付自転車の法定速度を超えていた。
それでも気を抜くと、原チャとの距離が開いてしまう。まだ加速しているのだ。
「くそっ、何て原チャだ!!!」
もはやバーサークしている朝霞なので、助手席に座っている間下は声を掛けられないでいる。
「やられはせんっ、やられはせんよぉ!!」
謎の台詞を吐きながら『白い異邦人』はドリフトする。一方原チャは、ドリフトをせずにカーブを曲がれるので、スピードをそのままにさらに加速する。
もはや霜片もバーサークモードと言っても過言ではない。
本人たちは気づいていないが、いつぞやの国道286号線(にっぱーろく)の戦いの再来である。
そしてついに・・・。

『白い異邦人』が『伊那市』を捉えられないまま、ゴール地点を過ぎていた。
朝霞は、原チャに追いつけなかったことがショックだった。バーサークしていても、それなりに映像は頭脳の内に残るのだ。
一方霜片は、ゴールをかなり過ぎた所からとろとろと引き揚げてくるところだった。例によって顔は蒼い。
助手席の間下は車を降り、霜片に声を掛けた。
「いやぁ霜片くん、いいものを見させてもらった!」
この情報はギャラリー全員に電光石火のごとく伝わった。石川島や石津などは、予想もしない強敵の出現に息を呑んだ。風原は喜んでいる。幸村はしてやったりという表情である。
聞けば、霜片がゴールしてから朝霞の車が来るまでに10秒近くかかっていたという。
『伊那市』完勝の瞬間である。

結局ぶっちぎりで霜片が優勝し(いつからレースになったかは分からない)、勝者を称えるために、一同帰り道に飯を食いに行くことになった。
学生が、夜になって、みんなで食べに行くところと言えば、回転寿司と相場は決まっている。
ここでも波乱があった。
大食漢の幸村は、20皿食べた上にさらにデザートを食べたこと、既に食事を取ってきた風原は、この日石津に、どちらが多く食べるかという挑戦を無謀にも受け、そして散ったこと。
「おぢいちゃん、大丈夫?」
余裕の幸村は風原に問う。
「だから私は嫌だって言ったんですよぉ〜・・・」
風原の声は、いかにも後悔しているようである。
そして主賓の霜片はというと、
「ゆっきぃ〜・・・。」
「どうしたシモヒラ?」
「僕さぁ、実は『ぷくホー』で食べてきちゃんたんだよぉ・・・。」
「そんなもん、俺だって今日食ってきたよ。」
幸村の化け物ぶりを目の当たりにした霜片だった。
この日霜片は2枚でギブアップした。おごってもらえるときにこれだけしか食べられない自分に限界を感じている霜片だった。  一方風原は、向こうの方で石津に介抱されているようだった。
「おぢいちゃ〜ん、死んじゃ嫌だぁ〜!!!」

(完)

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