その頃朝霞は、一般道であるがゆえに雪の障害をもろに受けていた。
「ぬうぅ、おのれぇぇ、天までも俺をたばかる気かぁ!!」
ハイパーモードに片足を突っ込んでいる朝霞には、現在『赤い彗星』がどの辺りにいるかなど、推測するべくもなかった。
「・・・『赤い彗星』め、見かけたら生かしてはおけん!!」
殆ど八つ当たりである。
関沢ICに単独で乗り込んだ朝霞は、ゲートをくぐるなり派手に加速していった。
先程の一般道で溜めたストレスを解放するときが来たのだ。
そしてようやく本線に合流したそのとき、朝霞は今まさにトンネルの中に入ろうとする一台の赤い影を見た。
その瞬間、朝霞の目が輝く。
「ふふっ、いざ、尋常に勝負!!」
しかし、次の瞬間、朝霞はまたもやその出鼻をくじかれた。
目の前の笹谷トンネルは、工事のために上下線交互の通行になっていたのである。
したがって前方の赤いマーチ諸共、トンネルを目の前にして足止めさせられることになる。
「ぬぅぅ、おのれおのれぇぇっ!!!」
朝霞の怒りは、その雄叫びとともに最高潮に達した。
「・・・謀ったなぁぁ、シャアぁぁぁっ!!!!(やっぱり謎)」
幸村は足止めを食って、こう思った。
「いやぁ、さっきおぢいちゃんにビデオの録画頼んでおいてよかったぁ。」
安堵の表情を浮かべている幸村とは対照的に、霜片は「オレネムイ」モードに突入しつつある。
眠気覚ましの『ブラックアウトガム』は、霜片の勘違いで、実は既に底を尽いていたのである。
「う〜、工事が僕のじゃまをする〜。」
「・・・おい、シモヒラ! こんなところで寝るんじゃない!」
「そんなこと言ってもさぁ、やることないんだもん・・・。」
普通の人であれば、霜片のテンションを維持することに対して半ば諦めモードに入るのであろうが、幸村は霜片の扱いに慣れていた。
おぢいちゃんこと風原とともに、霜片をして「無二の親友」と言わしめるだけのことはあるようだ。
「よし、じゃあBachのCDでもかけようか。」
霜片は無類のBach好きである。しかも口ずさめるような曲がいいらしい。
口ずさみながら、いつも『群青の流星』でドリフトを決めていたのは、まさに驚愕に値する。
一方朝霞は・・・。
おのれの神経を高ぶらせるため、後輩の石津にもらった『石津セレクション』というCD−Rを聴いていた。