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 その日の笹谷峠は、小雪がちらつく空模様であった。
 山形蔵王ICから高速に乗った霜片たち一行は、偶然によって選んだ選択肢が、実は正しかったのだと確信した。高速道路の方が一般道よりもメンテナンスが行き届いているからである。
「雪が降ってきたじゃん、シモヒラ〜。俺たち高速に乗って正解だったかもしれないなぁ。」
 その選択をした当の霜片は、退屈そうであった。
「これで『にっぱーろく(国道286号線のこと)』とかに行って、こんなときに『白い異邦人』とかに遭っていたら、今ごろは大変だったかもしれないなぁ。」

 その頃朝霞は、一般道であるがゆえに雪の障害をもろに受けていた。
「ぬうぅ、おのれぇぇ、天までも俺をたばかる気かぁ!!」
 ハイパーモードに片足を突っ込んでいる朝霞には、現在『赤い彗星』がどの辺りにいるかなど、推測するべくもなかった。
「・・・『赤い彗星』め、見かけたら生かしてはおけん!!」
 殆ど八つ当たりである。
 関沢ICに単独で乗り込んだ朝霞は、ゲートをくぐるなり派手に加速していった。
 先程の一般道で溜めたストレスを解放するときが来たのだ。
 そしてようやく本線に合流したそのとき、朝霞は今まさにトンネルの中に入ろうとする一台の赤い影を見た。
 その瞬間、朝霞の目が輝く。
「ふふっ、いざ、尋常に勝負!!」
 しかし、次の瞬間、朝霞はまたもやその出鼻をくじかれた。
 目の前の笹谷トンネルは、工事のために上下線交互の通行になっていたのである。
 したがって前方の赤いマーチ諸共、トンネルを目の前にして足止めさせられることになる。
「ぬぅぅ、おのれおのれぇぇっ!!!」
 朝霞の怒りは、その雄叫びとともに最高潮に達した。
「・・・謀ったなぁぁ、シャアぁぁぁっ!!!!(やっぱり謎)」

 幸村は足止めを食って、こう思った。
「いやぁ、さっきおぢいちゃんにビデオの録画頼んでおいてよかったぁ。」
 安堵の表情を浮かべている幸村とは対照的に、霜片は「オレネムイ」モードに突入しつつある。
 眠気覚ましの『ブラックアウトガム』は、霜片の勘違いで、実は既に底を尽いていたのである。
「う〜、工事が僕のじゃまをする〜。」
「・・・おい、シモヒラ! こんなところで寝るんじゃない!」
「そんなこと言ってもさぁ、やることないんだもん・・・。」
 普通の人であれば、霜片のテンションを維持することに対して半ば諦めモードに入るのであろうが、幸村は霜片の扱いに慣れていた。
 おぢいちゃんこと風原とともに、霜片をして「無二の親友」と言わしめるだけのことはあるようだ。
「よし、じゃあBachのCDでもかけようか。」
 霜片は無類のBach好きである。しかも口ずさめるような曲がいいらしい。
 口ずさみながら、いつも『群青の流星』でドリフトを決めていたのは、まさに驚愕に値する。

 一方朝霞は・・・。
 おのれの神経を高ぶらせるため、後輩の石津にもらった『石津セレクション』というCD−Rを聴いていた。

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