(5)
 宮城側からの車が途絶えて、入れ替わりに山形側の車が動き出したのは、朝霞が関沢ICから合流してから20分後のことだった。
 一方霜片は、夢と現との境目を行ったり来たりしながら、Bachを口ずさみ、先行車両の後についていった。
 そして幸村は・・・寝ていた。幸せそうである。
 笹谷トンネルの4車線化工事のため、片側交互通行に、しかも1車線で走らされる。
 トンネル内のナトリウムランプが妙に明るい。
 その黄色い明かりに照らされて、赤いマーチの真後ろに不気味に張り付くユーノスが1台。
 霜片も全然その存在に気が付かないでいた。幸村に至っては論外である。

 既に朝霞はハイパー化していた。
 ある意味放心状態とも言う。
 既に思考能力はない。
 例の『石津セレクション』により鼓舞された結果である。
 そして朝霞の意識を占めるものはただ一つ、目前の敵、『赤い彗星』だけであった。
 もはや雄叫びを上げる余裕すらない。
「あれは、敵・・・、倒すべき・・・敵・・・。」
 先程から何やら呟いている。
 そして朝霞が狙っているのは、この先工事区間が終わり、片側2車線を存分に使えるときである。
 そのときこそ決戦なのである。

 霜片が「オレネムイ」モードに入ると、どのような運転になるのか?
 結論から述べると、「しもしゃ」が自動操縦になるのである。
 正確には、霜片が運転していることに違いはないのだが、全くの無意識のうちにいつも帰る道を選んで運転することになるのである。
 したがって「オレネムイ」モードのときには、霜片の記憶はない。
 そして助手席で幸村が気持ちよく寝ている中、ついに「オレネムイ」モードが発動することとなった。
 霜片の目は、現在ガチャピン状態である。
 ここからは霜片の「無意識」が、精神に代わって身体を、そして「しもしゃ」を操縦する。
 そして決戦の時間が来た。

 笹谷トンネルを出ると、反対側の車線で待機する車の列が現れ、そしてついに、その列の最後尾が見えた。
 ここぞとばかりに、ユーノスのエンジンがいななく。
 朝霞も雄叫びを上げる。
「待っていたぞ、この瞬間を!! いざ尋常に勝負!!」
 朝霞がアクセルを踏み込む。
 そして視界が開けた。戦いが始まったのである。
 が。
 またしても、ここで朝霞は驚愕させられた。
「・・・は、謀ったなあぁぁぁっ、シャアあぁぁぁっっ!!!(ついに謎は解決せず)」
 視界から『赤い彗星』が消えたのである。
 朝霞も放心状態に陥った。
「なぜだ・・・、なぜだ・・・、なぜ消えたのだぁ???」
 そしてしばらく走り続けてハイパーモードが解けたとき、ようやく事態の真相を知ることになる。

 視界が開けたその先には、「笹谷IC」の出口があったのである。
 そして「オレネムイ」モードの霜片は、「いつも帰る道」である「笹谷IC」を降りたのである。
 つまり最初から、朝霞ユーノスなど、眼中になかったのである。
 料金所で支払う段になって、ようやく霜片は目覚める。
 その声で幸村も目覚める。
「お、無事に宮城に戻ってきたか・・・。」
 それだけ言うと、幸村はまた眠りにつく。
 しばらくして霜片も「オレネムイ」モードに突入するのだった。

 一夜明けて早朝、やっとのことで部下が朝霞を見つけたのは、これから日の出を拝もうとひとりたたずんでいる仙台港だったという。

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