(2)
 幸村は助手席に座って事情を聞いた今も、驚愕の色を隠せないでいた。
「うおぉ、『しもしゃ』が赤いぃ〜!!」
「しょうがないじゃん、弟が使うって言ったんだから。」
 しかし幸村もしばらくしてあることに気が付いた。
「なぁシモヒラ〜、なんか、内装赤くないか?」
 霜片はいつも通りに答える。
「お、ゆっきーよくわかったねぇ。弟が変えちゃったんだよ。」
 言われてみればかなり内装が変わっている。というよりは赤いのだ。運転席にある計器類をはじめ、ATのギアまでもが赤く光っている。
「なんか、ニュータイプ専用機、って感じだなぁ。」
 霜片が乗れば、まさにそうかもしれない。
「ん〜、何か弟もそんな事言ってたなぁ。ニュータイプって何だい?」
 幸村は思った。血は争えない、と。
 続けて霜片は説明する。そして幸村の想像は確信に変わった。
「何か他のところもいじってあるらしいよ。ブレーキもレース用みたいだし、何よりも加速が格段に普通のマーチと違うしねぇ・・・。」
 速度はいつも通りであった。そして小回りがいつも以上に効くのである。加速こそ『群青の流星』に劣るようであるが、峠を攻めさせれば運転次第では『群青の流星』以上かもしれない。
 そしていつものように、二人は山形方面に向かうのであった。

「くっ、おまえたち、直ぐ俺のクルマの調整に入ってくれ。そんなやつをのさばらせておいてたまるか!!」
 朝霞は燃えていた。
 まず、新たな敵は赤いマーチであることである。マーチごときに峠を走らせておくわけにはいかない、というプライドがあった。しかしそれ以上に火がついたのは、相手が『松本ナンバー』であることであった。
 もし『群青の流星』の仲間であれば、会稽の恥をすすぐ前哨戦になるかもしれない。
 またそのクルマが何らかの事故で『群青の流星』が葬り去られた後釜であるとするならば、自分がとどめをさせなかったことに対して怒りが込み上げてくる。屈辱である。それこそ会稽の恥をすすぐチャンスである。
「天下のユーノス、万が一にもマーチに負けることはあるまい・・・。ふっ、ふふふっ、ふははははは・・・」

 そして霜片一行は関山峠を越えて山形に入った。
 幸村は感動する。
「いやぁ、このクルマすごいねぇ!」
 予想通りの走りなのである。いや予想はすでに超えているのかもしれない。予測がつかないことを予想していたのだから。
 赤い「しもしゃ」はつづら折りになっているコーナーを、ドリフトすることなくすいすい抜けていく。クルマが変わっても、そのクルマに合わせた乗り方をする霜片を見て、やはりこの漢、ニュータイプに違いない、と考えていた幸村だった。
 今日の夕食は、いつになく楽しいものになりそうである。

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