(4)
 朝霞は既にハイパーモードに突入していた。
 己の意識は消え失せ、ただ本能の赴くままに操舵する。
 そして本能の向かう目的は、クルマ3台分先を行くレガシィを叩きのめすことであった。
 そのためのユーノス、そのための『黒い異邦人』である。
 かつては『白い異邦人』で名を馳せ、青葉城址選手権で愛機を散らせた経緯がある。
 その前には川崎町の信号で捕まったこともある。
 不完全な調整のまま、『赤い彗星』に挑んだこともある。

 そこに超えられない壁があった。

 それまでトップを張り続けていたプライドは、もはや消えていた。
 仲間の元を離れ、一匹狼で走り続けた。
 そしてテクニックを極めようと、様々な峠に挑んだ。
 これまでに潰したタイヤの数も半端ではない。
 車体にあったタイヤの選択も、必然的なものになった。
 使うガソリンやエンジンオイルのブランド、ブレーキ制御のカスタマイズにも手を出した。
 エンジンそのものはノーマルなままではあるが、周辺機器には極力手を加えた。
 軽量化にも心血を注いだ。
 できることをできる限りやってきたつもりだった。

 後は、ドライビングテクニックだけだった・・・。

 現在、目の前を行くレガシィと、ぎりぎりの精神戦を続けていることに、満足感があった。
「これが、戦い・・・!?」
 朝霞の足は、ユーノスの鼓動をアクセル越しに感じていた。
 状態は万全である。
 特に今夜のレスポンスは、これまでにない官能がある。

 そして朝霞は、アクセルを踏み込んだ。

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