(3)
 宮城県に入ると、様相は一変した。
 トラックの群れが消えたのだった。
「あれほどまでのトラックが、嘘のように消えたねぇ。」
 幸村の一言。
「東京に着く時間を逆算すると、あの辺りに今の時間が最も混むんだ、きっと。」
 しかし、霜片はそれに応えなかった。
 障害物がない、ということは、決戦の火蓋が切って落とされたのである。

 視界が開ける。
 その瞬間を待っていた2台。
 そして今、2つの明かりが激しく加速する・・・。

「・・・。」
 もはや朝霞にも言葉はない。
 ふたりの間には、言葉なくして、隔たりもなく会話ができているような感覚があった。
 幸村もこの状況に、ただ無言で居合わせるしかなかった。
 互いの車間は一定の距離を保ったまま、詰まるわけでも開くわけでもなかった。
 幸村には分かっていた。
 互いに様子を探っているのだ、と。
 そして互いの不意をつくことを狙っているのだ、と。
 沈黙の中、2台のエンジン音だけが響く。
 そうこうするうちに、クルマは若柳金成ICに差し掛かる。
 この辺りはクルマの他に明かりがない。
 そして、こんな夜に限って、曇天であった。
 空間的にも、ふたりだけの戦いになったのであった。

 後に亘理幸村は述懐する。
 その緊迫感の中には、人間の演ずるべきドラマの要素が集結していた、と。
 執着、嫉妬、焦燥、意地、戦慄、野望・・・。
 そんなものが渾然として空間を占めていた。
 互いの葛藤が聞こえるようであった。
 先輩と後輩、クルマの優劣、そしてテクニックの優劣。
 それらを賭けて、漢の戦いが静かに始まっていたのである。

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