一方八潮車と朝霞車は、先に高速入りしていた。
八潮のクルマが軽自動車なので速度を出せず、どうしても盛岡を先に出発しなければならなかったのである。
朝霞はそれに付き合っていた。
そしていずれのクルマにおいても、今日の演奏会の曲が口ずさまれていた。
「くっ、なぜこんなコンディションの時に焼肉をたらふく食わねばならんのだ!」
「ういやぁ〜・・・。」
「くぅぅ、オレの○○○・・・。」
一行のテンションも、そして車両の総重量も重かった。
前を行く八潮車にやっとの思いでついていく朝霞車だった。
と、そこへ2台の車が現れた。
「いざ、尋常に勝負!」
ブルーバードはエンジンを完全に開けた。
エンジンは激しく音を立てるも、女性陣が目を覚ます気配はない。
タイヤのグリップも申し分ない。
まさに現時点で発揮できる、ブルーバード最高のポテンシャルであった。
しかし。
後方のレガシィは何事もなかったかのように、寸分の狂いなく張り付いていた。
路面の起伏やコーナーリングに伴う速度の緩急、ライン取り、それらがすべてシンクロしていた。
「なあ、シモヒラ〜。」
この奇怪な現象を、後部座席で観察していた幸村は、ようやく口を開いた。
「相手が手ごわいわけじゃないよな?」
霜片の助手席歴では他の追随を許さないと自負しているだけに、既に霜片の心の内を読んでいた。
そしてそれに対し、霜片は微笑むだけだった。