(8)
 一関に差し掛かる頃、木之元の堪忍袋の緒は限界に達していた。
「・・・こうなったら全開でどこまで行けるか、やってやろうじゃないか!」
 既に同乗者がいることを忘れている木之元であった。
 一方『しもしゃ』側は、相変わらず運転手が鼻歌を歌っていた。
「このクルマを『群青の流星』と知っての狼藉か?」
 幸村は呟いた。霜片が、本気でこそあれ、まだ行動に移していないことに気づいているのである。
 その時、前を行くブルーバードの走りに異変が起こった。

 水沢I.C.で合流してきた2台に、朝霞は絶句した。
 レガシィの走りに見覚えがあった。
「ま、まさか、『群青の流星』!!?」
 そして、もう1台のクルマがブルーバードであることに気づく。
「あれは木之元・・・、そうか、もしや『群青の流星』とは?」
 しかし超重量級の車内に、朝霞はなす術がなかった。
 今や軽の八潮車にも追いつけるかどうかわからない。
 朝霞は同乗者すべて蹴落としたい衝動を抑え、必死に耐えていた。

 ブルーバードの異変は、トンネルをくぐり終えた頃であった。
 徐々にスピードが落ちているようである。
 霜片もその異変に気づく。そしてにやりと笑った。
「思った通りだ。」
「シモヒラ、何が起こったんだ?」
「おそらくはオーバーヒート。」
 霜片は確信していたのである。
「これだけ長時間、エンジンを開けっ放しにしてきたんだ。尤も、これがボクの狙いだった訳だけどね。」
 ブルーバードがハザードランプをつけたところで、レガシィは心地よく抜いていった。
「所詮はレガシィの敵ではなかった、ってことか。」
 幸村が感嘆のため息をついた。
「そうだね。まぁ、このクルマと勝負になるとすれば・・・」
 霜片が真顔になった。
「『黒い異邦人』くらいかな?」

「ねぇ、もっくん。何でこんなところで停まってるの?」
 起き出した女性陣にそんな言葉を掛けられながら、木之元は焦燥していた。
 そこへ後方の八潮と朝霞が追いつく。
 八潮と朝霞もそれに気づき、停車する。
「どうした、木之元?」
 そう八潮が聞く前に、朝霞には何が起こったか理解できた。
 好機、朝霞はそう思った。
「木之元、俺とおまえとで乗せる人を交換しよう!」
 朝霞は咄嗟に叫んだ。
 朝霞の目は血走っていた。
「・・・あのクルマは、俺が決着をつける!」

 一方『しもしゃ』では、何事もなかったかのように、霜片と幸村を除いて寝ていた。
 相変わらず霜片は鼻歌を歌っていた。
「シモヒラ〜、今日は眠くないの?」
「ゆっきー、今それを言おうとしていたんだ。」
「それってもしや・・・。」
「オレネムイ・・・。」

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