(6)
 走り屋さんたちのマフラーが爆音を立てる。
 これだけのクルマが集うと、一斉に音を立てれば殆ど雷鳴に等しい。
 しもしゃの後部座席組は、半分泣きそうになっていた。
 なぜこのような集団に巻き込まれてしまったか、事情を全然理解できていないかららしい。
 その点助手席の軍師・亘理幸村は、腕組みをしながら平然としていた。
 長年しもしゃの助手席は彼の指定席でありつづけていた。それだけ霜片と信頼関係が深いとも言えるし、また霜片に女気がないことを語る格好の材料でもある。
 ともかく、幸村は落ち着いていた。
 コクピットに座る人物が、これから何をしでかすか、既に予想がついているからである。
 幸村はひとつ溜め息をつき、微笑を湛えながら運転手に話し掛けた。
「シモヒラ。一発かましてやってくれ!」
 運転席の霜片も、微笑を返してそれに応えた。

 コースは長い直線である。
 途中にある信号をシグナル代わりにし、空港側から国道側へと走るルートで競い合うこととした。
 そのように霜片が誘導したのである。
 さながら走り屋の長がしもしゃであるかのような光景であった。
 走り屋のクルマと並行して、途中の信号までゆっくり走る。
 そしてスタートラインに停まる。
 いざ、勝負である。
 周囲は威嚇するかのようにけたたましく爆音を放出する。
 そして霜片は、それをあざ笑うかのような余裕を見せていた。

 信号が青になる・・・。その刹那の間に、既に勝負はついたも同然となった。
 しもしゃのロケットスタートである。
 3秒後には、あっさり突き放していた。
「・・・相変わらず強いねぇ。」
 幸村は腕組みを崩さずにそう言い放った。
 しかし後部座席組は、襲いかかる加速のGに抵抗するのでいっぱいいっぱいで、周りを見る余裕もなかった。
 まもなく前方に、一台取り残された女性のクルマが見えてくる。
 そこで初めて、霜片が口を開いた。
「よし、それじゃあやつらが報復なんかにでないように、きっちり灸を据えてやるか!」
 そう呟くや否や、その場に急停車した。ゴールはまだ先である。
 しもしゃの他のクルーは、半分宙に浮きそうになる。
「あ、停まった(はあと)」
 霜片は嬉しそうである。
「おい、シモヒラ〜!急に停まるんじゃないよぉ〜!さすがの俺でも予想できなかったじゃん!!」
 助手席で幸村が叫んだ。後部座席組はしゃべる余裕もないらしい。
 走行しているうちに爆音が近づいてきた。
「さて、料理してやりましょう!!」
 霜片は依然嬉しそうである。そしてしもしゃは急発進した。

「おい、あんなところで停まってやがるぜ、あのクルマ!」
「とことんなめられてんじゃん、うちら。」
「まぁいいや、勝ち誇っているところをボコにしてやろうぜ!!」
 走り屋さん連中は霜片の挑発に見事引っかかっているようである。一台置き去りの女性の方には見向きもしない。
 とそこへ、前方に停車中のレガシィが急発進した。
「なろぅ、ここで急発進しても、今まで加速してきたオレらにゃかなわねぇよ!!」
 しかし彼らの目の前で信じられないことが起こった。
 前方のレガシィが右に車線を移したかと思うと、次の瞬間急に左にハンドルを切ったのである。
「よっしゃぁ〜、ガメラ〜!!」
 霜片は嬉しそうである。

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