(5)
 この状況を見て最初にうなったのは幸村だった。
「むぅ、シモヒラ〜、獲物が八方塞になっちまったぞ、おい!」
 先程まで追いかけていたヴィッツは、完全に走り屋さんたちに囲まれていた。
 しもしゃは辛うじて輪の外にいる。
 そして蠢きはそのまま道を塞ぐかたちで停まってしまった。
「あ、停まった・・・。」
 そう口にしたのは権堂だった。
「おいおい、もしかしてこんな公道のど真ん中でケンカなんかおっぱじめやしないだろうなぁ!?」
 幸村が呟くが早いか、周りの走り屋さんにドライバーが連れ出される。
 そしてしもしゃのクルーは衝撃の光景を目にする。
 ドライバーは女性だったのである。

「やい、てめぇら! このオレを『スケ暴桃子』と知っての狼藉なんだろうなぁ?」
 その女性ドライバーは威勢よく啖呵を切った。
「あぁ?『スケ暴桃子』だぁ?この状況で何言ってやがる?頭いかれてんじゃねぇか?」
 周りのクルマの中からそのような声がする。
「へっ、『ねもびっつ』さんよぉ、どう?オレたちと遊ばねぇ?」
 そうして嘲笑が起こった。

「・・・どうみても、仲間って感じじゃなさそうですね・・・。」
 常識派のおぢいちゃんが話題を切り出した。
「・・・どうするよ、シモヒラ?」
 しもしゃにおける軍師とも言うべき幸村は、大将たる霜片に判断を委ねた。
 今までじっと状況を見つめていた霜片であったが、何かを決意したらしく、急に眼光が鋭くなった。
「・・・みんな、シートベルトをしてくれ!」
 その声は、いつもの「オレネムイ」を発動させる霜片ではもはやなく、威厳に満ち溢れていた。
 久しぶりに戦闘モードに入ったのである。
 その声に威圧されて、後部座席の二人がシートベルトをする。
 その瞬間、霜片はしもしゃのエンジンをふかした。
 『群青の流星』、覚醒の瞬間である。

 その音に何人かの走り屋は気づき、またそのうちの何人かはそれが『群青の流星』であることを理解したようである。
 青い車体は走り屋のクルマすれすれを通り、先頭に踊り出る。
 挑発である。
「くっ、くそう!!どこのモンだか知らねぇが、ケンカを売られたからには買わねぇわけにはいかねぇ!」
 外に出ていた者もみなクルマに乗り込む。
 その瞬間、『群青の流星』は急発進した。
 この先は直線道路。
 街の走り屋さん流に言うと「ゼロヨン」勝負である。
「なっ、このやろぉ〜!!」
 蠢きは思い思いに『群青の流星』を追いかける。

 『ねもびっつ』は一台取り残されるかたちになった。

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