(7)
「うおおおおおぉぉっ!!!」
 幸村は絶叫した。しもしゃはスピンしだしたのである。
「そおおれえええぇぇぇっ!!!」
 霜片は御満悦のようだった。
 後部座席からは何も聞こえてこない。ただの屍のようだ。
 走り屋さんたちのクルマはそのスピンを避けようと、まるではじかれるがごとくに脇の潅木に突っ込んでいく。
 そして静寂が訪れた。
 もののみごとに走り屋さんたちを蹴散らし、再起不能にしたのである。
「ふう。」
 霜片は溜め息をついた。ノーマルモードに戻っている。
「・・・まったく、何てむちゃなことを・・・。」
 やっとのことで幸村が声を出したとき、外から女性の声がした。
「おい、早く逃げないと、サツが来るよ!!」
 その声で我に帰った霜片は、女性の車の誘導で警察包囲の難を逃れた。
 いまやひっくり返った走り屋さんたちのクルマに回転灯をつけたクルマが群がっている。
 危機一髪であった。
 ちなみに後部座席組は、このサイレンの音でようやく目を覚ます。
 どうやら今まで気を失っていたらしい。
「ん、ここはどこ?え、あ、ま、まずいよシモヒラくん。逃げなきゃ!」
 現在の状況がわからない風原は戦慄真っ只中のようである。
 権堂はまだ言葉を失っている。

 クルマはそのまま荒浜まで走った。
 深夜の誰もいない駐車場に、2台は停まった。
 全員がクルマの外に出る。
 女性が霜片たちの方に歩みより、口火を切った。
「ありがとう、まさかこれほどの走り屋に出会うとは思わなかった。オレの名前は根杜桃子(ねもり・ももこ)。『スケ暴桃子』ってのが通り名さ。」
 へぇ〜、という顔を4人がした。4人も走り屋と話をしたのは、これが初めてであった。
「ボクの名前は霜片雄大。こいつが亘理幸村、そして風原尊志で、権堂義和。」
「えっ、4人も乗っけてたのかい!!」
 根杜は驚愕した。あれだけの運動性を要する操作を、自分のほかに3人も乗せて行うとは、到底信じられないことだったからである。
「まぁ、『群青の流星』にとっちゃあ、あんなのわけないよな!」
 幸村のその言葉を聞いて、根杜はまた驚愕した。
「あなたが・・・あの伝説の走り屋、『群青の流星』?!!」
 なぜか得意げになるのは幸村だった。霜片は恥ずかしそうにしている。
「え〜、いつもシモヒラくん、山形に行って帰ってくるときは所要時間気にしてるじゃん。」
 その風原の言葉を聞いて、根杜は確信したらしく、急にしおらしくなった。
「お兄ちゃん、私、ずっとお兄ちゃんに会いたかったの・・・。」
「へ?」
 男性陣はみな目が点になる。
「私心に決めてたんです。伝説の『群青の流星』さんに、私を妹にしてもらうんだ、って。」
 まだ男性陣は呆然としている。
「あの、『群青の流星』さん、私、お兄ちゃんって呼んでいいですか?」
 霜片以外の3人は苦笑した。

 何でも、走り屋の中では『群青の流星』はニュータイプ中のニュータイプ扱いされているらしく、また『赤い彗星』は神聖な扱いを受けているらしい。
 そんな『群青の流星』に憧れて、根杜は自分の愛車に、自分の名前の一部と車種を交えて『ねもびっつ』とステッカーを張ったらしい。
「とにもかくにも、シモヒラに妹ができたし、これで一件落着か?」
「あぁ、まったくうらやましい限りで。」
 幸村と権堂はそんな会話をしていた。
 満天の星空に、ひとつの流れ星が駆けていった。

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