街の灯りが途切れ、左右に田が広がってくる頃には、後部座席の風原と権堂は幸せそうな寝息を立てていた。
助手席の幸村は寝るわけにはいかない。ここで幸村が寝てしまうと、もし霜片が発動した場合に止める人がいないからである。
ここまで来て『オレネムイ』を発動されたら、気がつけば霜片の家のある川内まで戻っている可能性がある。
せっかく「槻木」を目指しているのだから、せめて目的地に着くまでは霜片の発動を抑制しなければならない。それが助手席に座る者の義務なのである。
幸村は霜片が眠くならないように話し掛ける。
「なぁ、シモヒラ〜。」
霜片の返事は少し遅れた。実はやばかったのだ。
「ん〜?」
「お腹空いたね・・・。」
「え、ゆっきー、あれだけ食ったのにもう腹減ったの?」
一度話し掛けられて以降は、意外にもまともに応対する霜片であった。
「ん〜、実は若干。やっぱりライスのおかわりをもう一回やっておくべきだったと、今後悔してるよ!」
「え〜、3回もおかわりしたのにぃ〜!!僕はあの膏がまだ胃にもたれてるよ・・・。」
言われてみれば、いつもより衰弱してダメダメモードのようである。
この分では今日の「オレネムイ」発動は、いつもよりも大分早いペースになりそうである。
やっとのことで「槻木駅」に到着した一行は、まず駅の自動販売機で飲み物を買うことになった。
妖しいネーミングの飲み物が好きな霜片は、駅で売っている『強清水(こわしみず)』という、味自体は何の変哲もない水を買った。
ちなみに後部座席組は烏龍茶を、そして幸村は某眠気覚まし系炭酸飲料を、それぞれ購入している。
「ゆっきー、またそれなの?」
そのように言うのは風原である。風原は、幸村の購入した飲み物の糖分を気にしているようである。
「だって、シモヒラが寝ちゃったら、俺たちシモヒラん家で一夜を明かすんだぜ。俺は嫌だから。」
このように思い思いの飲み物を調達して、さて帰ろうかとしたそのときに、一行は駐車場に一台の車を発見した。
数刻前にドリフトをかましてきた、あのクルマだったのである。