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 鹿野から南に向かう道は、柴田、大河原方面に向かう抜け道である。
 仙台市内から南に向かうのであれば国道4号線が最もポピュラーであるが、常に最速を目指す『しもしゃ』には、国道にあるオービスが邪魔なのである。
 しかも道がいい。片側2車線である上に、直線もある。
 したがってこの道は、街の走り屋にとっては、時々『ゼロヨン』が繰り広げられるほどの格好の道ということになる。
 この日もそれらしいクルマを見かけはしたが、『群青の流星』の前では敵にすらならなかった。
 まず、信号待ちからの加速が本質的に他のクルマとは異なっている。
 信号が変わって1秒後には、もう隣のクルマを半分追い越しているような具合である。
 そしてそこからの直線の伸びが異なる。『群青の流星』とは峠の走り屋の間での通称であるが、街の走り屋の間でも、一部で『蒼い弾丸』と呼ばれているようである。
 もちろん、これらの所業を、霜片は幸村たちと話をしながらやってのけているのである。
 当然風原や権堂は、このようなことが起きていることに気づいていない。それほどに霜片はナチュラルに運転を続けているのである。
 もはや天賦の才能としか言いようがない。

 街の灯りが途切れ、左右に田が広がってくる頃には、後部座席の風原と権堂は幸せそうな寝息を立てていた。
 助手席の幸村は寝るわけにはいかない。ここで幸村が寝てしまうと、もし霜片が発動した場合に止める人がいないからである。
 ここまで来て『オレネムイ』を発動されたら、気がつけば霜片の家のある川内まで戻っている可能性がある。
 せっかく「槻木」を目指しているのだから、せめて目的地に着くまでは霜片の発動を抑制しなければならない。それが助手席に座る者の義務なのである。
 幸村は霜片が眠くならないように話し掛ける。
「なぁ、シモヒラ〜。」
 霜片の返事は少し遅れた。実はやばかったのだ。
「ん〜?」
「お腹空いたね・・・。」
「え、ゆっきー、あれだけ食ったのにもう腹減ったの?」
 一度話し掛けられて以降は、意外にもまともに応対する霜片であった。
「ん〜、実は若干。やっぱりライスのおかわりをもう一回やっておくべきだったと、今後悔してるよ!」
「え〜、3回もおかわりしたのにぃ〜!!僕はあの膏がまだ胃にもたれてるよ・・・。」
 言われてみれば、いつもより衰弱してダメダメモードのようである。
 この分では今日の「オレネムイ」発動は、いつもよりも大分早いペースになりそうである。

 やっとのことで「槻木駅」に到着した一行は、まず駅の自動販売機で飲み物を買うことになった。
 妖しいネーミングの飲み物が好きな霜片は、駅で売っている『強清水(こわしみず)』という、味自体は何の変哲もない水を買った。
 ちなみに後部座席組は烏龍茶を、そして幸村は某眠気覚まし系炭酸飲料を、それぞれ購入している。
「ゆっきー、またそれなの?」
 そのように言うのは風原である。風原は、幸村の購入した飲み物の糖分を気にしているようである。
「だって、シモヒラが寝ちゃったら、俺たちシモヒラん家で一夜を明かすんだぜ。俺は嫌だから。」
 このように思い思いの飲み物を調達して、さて帰ろうかとしたそのときに、一行は駐車場に一台の車を発見した。
 数刻前にドリフトをかましてきた、あのクルマだったのである。

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