(2)
 前方にクルマがドリフトして入ってきた。
 これで燃えない霜片ではない。
 霜片が、まさに戦闘モードに入ろうとしたその時、ドリフトして入ってきたクルマを追いかけるような形で、数台のクルマが合流してきた。街中における走り屋、といえば聞こえはいいが、要はヤンキーの集まりである。
 このような状況に慣れていない後部座席の風原と権堂は、これから何をされるかわからないという恐怖に怯えていた。
 一方幸村は・・・。
「やったじゃん、シモヒラ〜。今日はこれだけの車が遊んでくれるんだってさ!」
 さすがにしもしゃの助手席歴は長い。こうした状況において霜片がとる行動を、既に読んでいた。
 途端、レガシィは覚醒する。回転数が上がる。
 しもしゃは、群がる数台のクルマの間を、かすることなくかわして前に出る。
 このとき、走り屋の中のひとりは、この『松本ナンバー』が峠の走り屋の間で話題の『群青の流星』であることに気づく。
「も。もしかして、『群青の流星』?!」
 しかし街中の走り屋には、『群青の流星』なる存在は知られていなかった。したがって『群青の流星』の恐怖は、このとき初めて街中の走り屋に知れ渡ることになる。

 ひと通り障害物を避けきったしもしゃの中では、安堵と興奮とが交錯していた。
 クルマの群れは、はるか後方である。
 後部座席の風原がまず切り出した。
「すごいよシモヒラ、ゆっきーが『ニュータイプ』って言ってたのがよくわかったよ!」
 霜片もまた、いつもの霜片に戻っていた。
「ねぇ、前から気になってるんだけどさぁ、『ニュータイプ』って何?」
「シモヒラ、そんなのもわからないの?ネットで検索すればきっと載ってるぜ。」
 なぜか助手席の幸村は得意げだった。
「ところで、さっきドリフトしてきたクルマは、どこに行ったんだろうねぇ。」
 先程までぽかんとしていた権堂が、そういえば、というタイミングで話を切り出した。
「おお、まったくだ。シモヒラ、きっとこの先の『にっぱーろく』を右に曲がったぜ!」
 幸村はもはや軍師であった。
「う〜ん、どうかなぁ、さっきの走り屋も街の走り屋だったし、追われていたところを見ると、おそらく街の走り屋だから、山には行かないんじゃないかなぁ。」
 霜片は一つ欠伸をした。
「まぁ、でも交差点まで追いかけてみますか。」
 今度は平穏にスピードを上げていく。
「そういえばゆっきー、ドリフトしてきたクルマって、どんなクルマだった?」
 そうだ。目的のものがわからなければ追跡もできない。
「う〜ん何だろ、あの形のクルマには見覚えがあるんだけどなぁ・・・。」

 茂庭の山を上りきって下り坂に入った頃、ようやく先行車両に出会う。
 が、それは人情避けがウリのトラックであった。
「どうも、見失ったらしい。」
 そう幸村が結論を出したときには、既に『にっぱーろく』を東に向かっていた。
 当初の目的地、『槻木』に向かうためである。
 いつしかしもしゃは鹿野まで戻ってきていた。

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