しもしゃが走る!

第3章 スケ暴桃子、現る!

(1)
 東北にも春が近づいていた。
 夜の冷え込みもそれほどきつくなくなり、路面の凍結も峠を除けば殆どないといってもいい状態である。
 そして今夜は、霜片たちにしてはなかなか計画的なドライヴであった。
 まず、今夜の「しもしゃ」の中には幸村以外の人間が乗っている。
 とはいっても、ひとりは風原尊志であり、もうひとりも残る三人といつも一緒に行動している権堂義和(ごんどう・よしかず)である。「いつもの面子」的には変わりはない。
 そして何が計画的なのかというと、夕飯を一緒に食べに行くという点が、しかも食べに行く店まで3日前から決まっていたことである。
 飯のことなら、企画する人間は4人のうちで亘理幸村と相場は決まっている。
 泉の方に新しいラーメン屋ができたという情報を、コンビニで情報誌を立ち読みしていた幸村が仕入れてきたのが、単純に3日前なのである。
 まだラーメンがおいしい季節に、というのが建前であるが、本当は食べられればどこでもよかった4人であった。
 そしてこの4人が集うと、食後は必ずドライヴになることも、この4人組を知るものなら誰でも知っていた。
「腹ごなしに・・・」と霜片は言うが、それが何の腹ごなしにもなっていないのは暗黙の了解であった。要は何かしらを口実にドライヴができればいいわけである。
 このあたりの「食後のドライヴ」には、もはや計画性は要求されない。4人の頭脳を駆使して得られるランダムの結論で、すべての目的地は決定されるのだ。
 今夜の目的地は「槻木(つきのき)」ということになった。

 北環状線を「しもしゃ」は軽快に南に向かう。
「いやぁ、あのラーメン屋には参ったねぇ。」
 助手席の幸村が話の先陣を切った。「しもしゃ」では必ず助手席に幸村が座るが、なぜ指定席なのかは言わない約束である。
「・・・あの膏のこてこて加減には、私参りましたよ・・・。」
 風原も「甘いものだったらよかったのに」という顔をしている。
「全くだ。」
 権堂も同意見のようである。霜片は相変わらず話を聞かずに運転に集中している。
 いや集中しているのは口ずさんでいるBachの方にであろうか?
 ふと折立の交差点で「しもしゃ」にしてはちんたら走っていると、左からものすごいドリフトをかまして「しもしゃ」の前にクルマが闖入してきた。
 霜片にしては宣戦布告である。それを受けないはずがない。
 こんな出会いがあるからこそ、食後のドライヴはやめられないのである。
「お、今夜もドリフト大会か?」
 幸村のちゃちゃが入って、霜片が戦闘モードへと突入する。

(2)へ

「しもしゃ」インデックスへ