(4)
 ヘアピンを左に曲がると、すぐに直角に右に折れて、信号に掛かる。
 この交差点には交番があるので、関係車両もそうでないクルマもここで足止めされることとなる。
 好き好んで捕まる行為はしない点が、走り屋の律儀な点でもある。
「あ、次の信号を左です。」
 推上のナビは言う。どうやら衛藤と出会う前の橋に向かうらしい。そして案の定その道を通ったのだが、今度は美術館の角で左折させられた。
「ん、もしや?」
 霜片は思った。『青葉城址選手権』と銘打つからには、この先青葉城址の方向に抜けなければならない。すると・・・。
「この先直進して、それから右に曲がって青葉城址へ抜けるんだね?」
 そう推上に尋ねると、彼は微笑んで、
「ええ、その通りです。流石ですねぇシモヒラさん!」
と答えた。
 その瞬間、霜片の形相が一変する。ハイパーモード発動の瞬間である。
 この先のルートがどのようなものかが彼の脳にインプットされたならば、彼はその時から『群青の流星』使いになるのである。
 エンジン音が高鳴る。このレースはトータル2周。これで1周したわけだから、後はどう走るか、彼の脳裏に鮮明に浮かび上がるのである。
 次の瞬間には、推上は戦慄していた。これが同じ霜片であるとは思えない、そう感じた。先ほどまでの運転でも、推上の想像をはるかに超えていた。そして今の霜片は、もはや人間離れしているとしか思えなかった。
「・・・朝霞さんのよう、いや、朝霞さんを超えているかも・・・。」
 朝霞の運転については、サークルの誰もが知っている。サークルの人間がこの走りを体験したら・・・。そう思うと、推上は興奮する一方であった。
 推上が驚愕している間に、しもしゃは青葉城址への坂をうねうね登ってゆく。
「うぃ〜やぁ〜!!!」
 頭を揺さぶられて、推上は絶叫を挙げざるを得なかった。クルマの重心が動くのが分かる。
 一方霜片は、狂喜の感情を顕わにし、既にこの災難(?)を十二分に満喫しているようだった。
 この上り坂に入って、既に3台をコーナーで抜き去っている。
「ふふふっ、雑魚がぁ!!!」
 もうじき坂の頂上である。ということは、あと少しで1周が終わるのである。
 しかしそこで、霜片たちは信じられないものを見た。
『白い異邦人』が停まっていたのである。

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