(3)
 しもしゃは通称『獅子転げの坂』を滑るように降りてゆく。
 先程の停車で多少前後のクルマは減ったものの、依然として囲まれているのには違いないようだった。
「いやぁ、シモヒラさんが『青葉城址選手権』に参加していらっしゃるとは思いませんでしたよ。」
 推上が嬉しそうに助手席に座っている。
「それだよそれ!『青葉城址選手権』ってのは何なんだよ?」
 緩やかにアウトインアウトを決めながら霜片が訊ねる。
「えっ、シモヒラさん、参加されているんじゃないんですか?」
「なんだかわからないうちに巻き込まれちゃったんだよ。」
 推上は呆気に取られながら、事の次第を説明してくれた。
『青葉城址選手権』・・・それは、青葉城址の急な坂道やカーブをコースにしてスピードを競う、走り屋さんたちのレースのことらしい。
「うちのサークルの朝霞さんも『選手権』に出てるんすよ。」
 それは先程見かけた光景のことだろう。
「ところで石津は何をやっているんだ?」
「ああ、石津は朝霞さんのナビっすよ。」
 なんでもコースがあるらしく、そのコースを無理にはみ出ると、警察に知れてしまうとの事である。
 こんな無謀な運転が警察権力に知れたら、それこそ大変なことになるだろう。
「じゃあ、僕はこのレース抜けられないの?」
「そういうことになりますねぇ。」
「うぅ〜」
 あの時白銀の軽の挑発に乗ってさえいなければ、と、今さらながら後悔する霜片だった。
「そういえば、うちのサークルの雅史も、これに参加してるらしいっすよ。」
「へぇ、あいつがねぇ〜」
「何でも最近親が買った新型の軽自動車で参戦しているって話ですよ。」
 ぴくん! もしや!!
「そのクルマって、もしかして白銀?」
「ええ、そうですが・・・もしやもう会いましたか?」
 雅史こと衛藤雅史(えとう・まさし)は、霜片の3コ下の後輩である。ちなみに何のサークルかはいまだに秘密である。
「もしかして、あいつの運転、かなり上手い?」
 『群青の流星』のプライドはあるものの、やはり気になる霜片であった。
「え、あいつの運転ですか?噂によると、こないだ信号に気が付かなかったり、横断中の歩行者を轢きそうになったり、ブレーキのタイミングがやたら遅かったり、かなりデンジャラスらしいですよ。」
 もしやそれが原因で速いのか?
 評定河原の橋を越えるときには、やはりしもしゃらしく100km/hは軽く出していた。
 その橋の、わりと急なアップダウンを過ぎると、点滅の信号を右折する。もちろんドリフトで。
「うぃやあ〜!!」
 推上は奇妙な声をあげている。
「推上、この先はどう行くんだ?」
 推上は目を回しながら、
「確か、この先の信号を左にヘアピンですよ・・・まさか?!」
 そう、まさかである。
 しもしゃがこんな絶好のカーブをドリフトしないはずがない。
「それぇ〜!!」
 霜片本人のエンジンもかかり始めたようだった。

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