(2)
前方で行く手を阻むものは軽、その事実を知ったとき、霜片は愕然とした。
「軽に行く手を阻まれるとは、この霜片一生の不覚!」
人ひとりに「一生の不覚」は何回あるかは分からないが、ともかくこのとき霜片はこう悟った。
しかしこう悟ったからには負けられない。そうも思った。
そして車は山を上り続け、トンネルを過ぎて分岐点に出た。
白銀の軽は右に曲がる。そこは直線道路だった。
しかし霜片はそこでスピードを落とすことを余儀なくされた。その分岐点は、彼の通うキャンパスの真ん前だったからである。
「くそっ、軽ごときに負けてたまるかぁ!」
と叫んでは見るものの、学校から与えられる威圧には、さしもの『群青の流星』といえども屈せざるを得なかった。
しかしその交差点で一時停止をしてみると、右手にはまだ直線道路を走っているクルマが見えた。
「ふっ、神はオレを見放さなかったぁ!!」
霜片は教習所の場内のごとくしもしゃを右に曲がらせると、そこからは徐々にいつもの速度に戻していった。
この先にあるものは、青葉城址である。
しばらく走って突き当りを右に曲がると、わずかに下って、右へのヘアピンカーブになる。そのヘアピンカーブのところに割合大きなランドマークがある。それが青葉城址の入口である。
ところが、そのヘアピンを中心に、なんと10台前後のクルマが止まっているのである。
そして白銀の軽としもしゃが近づいてきたそのとき、青葉城址の入口に立っている男が旗を振った。
その途端、他のクルマも一斉に動き出した。
何やらレースめいている。
しかも囲まれてしまった。
走り始めるとまず自殺の名所となっている橋を渡る。何でも人気のない場所にあるのに加えて、高さが並ではないからである。どういうわけかは知らないが、ここにバス停があるから不思議である。いずれにしてもその橋を渡った後には10%の勾配を上る。うねうね上りきると信号があるが、この時間はもう点滅している。この信号で一行は左折するのだが、どうしても右に曲がらせてくれない。
「あう〜!」
霜片は何も出来ないでいることに憤りを感じつつあった。
ここからは下りである。信号もいくつかあるが、押しボタン信号なので意味がない。そうこうしているうちに突き当たりの信号に出会う。が、ここも強制的に左に曲がらせられる。
「う〜!」
どうにかしなければ、と思っている矢先、1台のクルマがコンビニの前で止まった。と思いきや、それは・・・。
白い異邦人!?
そのランサーはそこで止まったかと思うと、ひとりそこで人を乗せた。
何と同じサークルの石津と、その同期の推上八尋(すいあげ・やひろ)がいた。推上は石津を見送った。
これは推上を捕まえて事情を聴くしかない。一体これは何なんだ?
推上の方もしもしゃの存在に気づいたらしく、向こうから手を振ってきた。
「あれぇ、シモヒラさん、シモヒラさんも『青葉城址選手権』に参加されているんですか?」
?
『青葉城址選手権』?
とりあえず今の霜片に考える暇はない。
「とにかく乗ってくれ!話はそれからだ!」
半ば強引に推上を拉致って、しもしゃは急発進した。
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