(2)
 その日、山形から帰るルートは、笹谷峠であった。
 レガシーは快調に走る。それとは裏腹に、幸村の胸の内には、わずかながら翳りがあった。
 ファミレスで聞いた話である。
 相手はどのような人物であるか分からない。しかしその噂を聞いて以来、今夜その『白い異邦人』に遭遇してしまうのではないか、とネガティヴな方向へ考えを至らせてしまうのであった。
 そんな折、幸村に一本の電話が入った。霜片、幸村、共に親友の風原尊志(かざはら・たかし)からである。
「あ、もしもしゆっきー?」
「なんだ、おぢいちゃんからだよ。」
 幸村は運転席の方を見て微笑した。
「今どこにいるの?」
「今ねぇ、まだ山形。もうすぐ国境を越えて宮城に入るよ。」
 電話の向こうは平和そうである。
「へぇ、そうなんだぁ〜。やっぱり霜片は君を拉致ったんだね!」
 しかもこちらの事情までお見通しである。
「風原は何してたの?」
「僕?僕はねぇ、今日は一日中空いていたから、アニ○イトに行ってから甘味処の探索に出かけてたのだぁ!!!」
 受話器を握る幸村が萎える。案の定というヤツである。こいつが甘味処の探索に出かけていなければ、後部座席にはこいつがいたのに、という心境である。
「おぢいちゃん、お金持ちだねぇ。」
「いえいえとんでもございません、亘理様。僕はただ甘いモノが好きなだけですよ。」
 半ば呆れかけていた幸村であったが、電波の入りが悪くなってきたところで、
「おい、シモヒラ。もう少しスピード落としてくれ。電波が入らない。」
と、ついに霜片の運転に意識を移した。
 その時であった。
 向こうから来るクルマが、それこそ刹那の間ですれ違っていったのである。
 色は白・・・。もしや・・・。
 そう思うが早いか、突然霜片が叫んだ。
「速! ねえゆっきー、見た? 今の。超はや〜!!」
 かなり無邪気に喜んでいる。それを横で見ながら幸村は思う。なんて幸せなヤツなんだろう、と。
「ねぇゆっきー。何かあったの?」
 電話の声にようやく我に返った幸村は、これから峠越えだから、という理由で電話を切った。そして、
「シモヒラ。今夜は走り屋さんがいるみたいだから、気をつけて運転してくれよ!」
「え、なんでゆっきーがそんなこと知ってるの?」
「今おぢいちゃんに聞いたんだよ!!」
 最後の台詞は、半ばやけであった。

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