第1章 群青の流星
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夜の国道48号線(ヨンパチ)をコバルトブルーの車体が駆ける。
ドライバーの霜片は至って嬉しそうである。
助手席では、いつものよう幸村が腰を落ち着けている。
「あのさぁ、シモヒラ〜。たまには助手席に女の子乗っける気、ないの?」
思わず幸村は霜片に聞いてしまう。それくらい霜片には女性に縁がない。
「ん、こないだ乗っけた・・・。」
「へぇ、シモヒラでも女の子乗っけることあるんだぁ。え、誰、誰?」
すると霜片は、いともあっさりと答える。
「え、うちの母親を・・・。」
「それって『女の子』って言わねーじゃん!!」
そうこうしているうちに、次第に山奥に入っていくしもしゃ。
「おいおい、今日はどこまで行くんだよ?」
つい幸村も聞いてしまう。
運転に陶酔している霜片は、しばらくしてから幸村の発言の意味を理解したらしく、
「ん?、あぁ、山形。」
その言葉を聞いて、幸村に戦慄が走った。
「おい、このスピードで、この先の峠を越える気か?」
この先の峠はカーブが多く、所々見通しが悪くなっているので、交通事故の名所としても名高い。下手に部分的に道がいいだけに、スピードを出す車が多く、結果的に事故が多くなってしまうのだった。
聞こえた幸村の言葉に、またもやしばらく間を置いてから答えがあった。
「え、このスピードって、まだ100km/hも出してないじゃん。」
こんなときの霜片の返答は、たいてい余裕がある。そう言いながらS字のカーブをアウト・イン・アウトで切り抜けていく。幸村の身体が大きく持っていかれる。
「お、おぃ、シモヒラ! 少しは加減してくれよぉ。俺のことを何だと思ってるんだよぉ!」
幸村の言葉に、少し焦りの感も窺える。
これにも霜片は、先のカーブを曲がり終えてから答えた。
「え、ゆっきーは無二の友達だよ!」
この台詞を聞いてから、「こいつ本当に考えているのか?」と思わずにはいられない、亘理幸村なのであった。
そして実際、霜片は殆ど考えていなかった。
しもしゃが山形市内のファミレスに着いたのは、深夜料金の取られる寸前の時間だった。
「なぜこの時間にここにたどり着けるかが、やっぱり疑問なんだよなぁ。」
何はともあれ、それだけの腕が霜片には備わっていたのであった。
「こうして平常料金で食べられるのも、霜片のおかげだぜ!」
ここは幸村、感謝一辺倒なのであった。
「あ、俺、ちょっとトイレ行ってくるから・・・。」
霜片がトイレに立って、独り取り残された幸村は、自分も運転免許を持ってはいるのに、なぜ彼の運転は自分の予測外の事をする場合が多いのだろうか、と考えてみた。先程の峠越えもそうである。その他にも、例えば山の上のキャンパスまで行くだけでも常にタイムアタックをしながら走っている。
「・・・やつは、時間に勝負を挑んでいるのかもしれないな・・・。」
そう思ったときだった。隣のテーブルを囲んでいた3人の、ちょっとチンピラ系の男が、何やら話し込んでいるのが聞こえた。
「・・・さっきヨンパチから13号線のほうに、すごい勢いで失踪していったクルマ、あったよな?」
「ああ、あの白のランサーだろ? あの信号待ちからの加速といい、あのスピードからのコーナーリングといい、あれはおそらく『白い異邦人』だぜ、きっと。」
「あれが噂の『白い異邦人』か! うぉ〜、あんなやつに喧嘩売らなくて正解だったぜ!」
それを聞いて幸村は慄然とした。『白い異邦人』は幸村でも聞いたことのある名だったからである。しかも胸中は不安で一杯になった。
「・・・シモヒラのやつ、まさか『白い異邦人』相手に勝負を挑むなんてこと、ないよなぁ・・・。」
そんなことを考えている間に、当の霜片が帰ってきた。
「ゆっきー、そろそろ帰ろうよ。俺が眠くなる前に。」