(2)
 そんなボクが変わったのは、その人がボクに涙してくれたときだった。
 ボクがけがをしたとき、
 ボクの不注意でけがをしたのに、
 その人は自分のことのように泣いたんだ。
「・・・ごめんよ・・・、僕が、僕がしっかりしていれば・・・。」
 ボクは泣けないんだ。
 だけどボクは、泣きたいと思ったよ。
 おそらく生まれて初めて、生きたいと思った。
 その人のために生きたいと思った。
 ボクが意志を持った瞬間だったんだ。

 でも本当は、生きられない存在なんだ。
 ボクがこうして生きようとすることは、
 森羅万象の法則からすればありえないことかもしれない。
 でもボクは生きたいんだ。
 その人のためにだったら、ボクは何でもできる。
 ボク、きっとその人に恋したんだ。

 その人はボクにいろいろなことを話してくれる。
 そしてその人は、ボクにいろいろなことを求めてくる。
 ボクはこの人のために生きられるなら、
 できる限りこの人に応えようと思った。
「よし、今日は海を見に行こう!」
 そうその人が望むのであれば、
 ボクはとびっきりの海を見せてあげたいし、
「今夜は静かに星でも眺めようか!」
 そうその人が望むならば、
 ボクも降り注がんばかりの星を見せてあげたいと思う。

 でも、ボク、片思いなんだ・・・。
 ボクの声はその人に届かない。
 もともと生きられない存在だから。

 それでもボクね・・・。
 その人はボクに『生命』を与えてくれたんだ、きっと。
 だから、ボクは、その人の気づかないところで、
 その人のために、精一杯頑張るんだ。

 その人の名は霜片雄大。
 ボクの名前は「ちゃっぴー」。
 人はボクのことを『しもしゃ』と呼ぶけどね。
 

「ごー、ちゃっぴぃー!!」
 こうしてボクとその人との微妙な関係は続くんだ。
 でもたぶん、これが「幸せ」っていうんだよね?

「さぁ、今日も頼むぞ!!」
 うん、ボク、頑張るよ。

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