(1)
ボクは、いったい何者なんだろう?
そう思ったのはその人と出会ってからだった。
その人はボクに、「生き方」というものを考えさせてくれた。
でも・・・。
あるはずもないのに・・・。
望むはずもないのに・・・。
ボクには、そんなもの、許されていないのに・・・。
その人との出会いがいつだったか、ボクははっきり覚えていない。
ボクが意識したそのときには、すでにその人はボクのそばにいてくれたんだ。
ボクがその人に出会わなければ、ボクはただのボクだっただろう。
存在すら、忘れ去られるものだったろう・・・。
その人から始めて声をかけられたときは覚えている。
「これからよろしくな!」
そうボクに聞かせてくれたんだよね。
それからボクは、その人といつも一緒にいるようになった。
その人の周りはいつも男のコしかいないこと。
「何で僕の周りには男しかいないんだろう?」
その人はいつもBachを聴いていること。
「Bachってのは天才だね。Bachを聴かない連中は音楽を語る資格なんかないさ。」
そう言ってボクにいろいろなことを聞かせてくれた。
おかげで、ボクはその人の生活を知ることができた。
「何で僕の周りには男しかいないんだろう?」
うそ・・・。
それは嘘。
ボク、本当は女のコなんだよ。
その人は気づいてくれないけどね。
その人がボクを男のコ扱いするから、
ボクも自分のことを「ボク」って呼ぶようになったんだ。
でも、ボク、誰なんだろう?
ボク、生きるべきものではないのに・・・。
ボクには未来など存在しないはずなのに・・・。
ボク、何のために存在するの?