しもしゃが走る!

第5章 決戦!

(1)
 東北道も一関近辺はちょっとした山道になる。
  カーブが多くなり、また勾配もある。
  岩手・宮城の県境付近は、国道4号でも東北道でも、基本的には山道なのである。
  夜ともなれば、辺り一面闇であり、また静寂であった。

  覚醒していた霜片が標準モードの走行に戻って、少しは幸村も落ち着いたらしい。
「なぁ、シモヒラ〜、次のPAでトイレ行きたいんだけど〜」
  先程までの緊張から解放され、幸村も自らの身体の存在を思い出させられたのである。
  夜は更けていた。「しもしゃ」のエンジンも静かである。
  霜片は幸村の要求には応えず、別の話題を振った。
「ゆっきぃ、君とボクとでどれくらい走っただろうねぇ?」
  くつろぎモードの幸村は、手を頭の後ろで組んでしばらく思案していたが、
「ん〜、何せいろんなところへいったからなぁ〜」
  霜片は不敵な笑いを浮かべる。
「延べにすると、日本一周くらいしてるかもね。」
「言えてる」
  しばらく含み笑いをした後、しみじみと霜片は語った。
「ボクたち、あとどれくらい一緒に走れるのかなぁ?」
  この突然の問いかけに、しばらく唖然としていた幸村であった。
「・・・そうか、学部生活ももう残り少ないんだよなぁ・・・。」
「・・・そうなんだよねぇ。」
  しばらく二人の間に沈黙が訪れる。過去が走馬灯のように巡る。
  霜片が実家からレガシィを持ってきてから、伝説は始まっていた。
  いつしか峠を攻める松本ナンバーが宮城県内で話題となり、そして噂が独り歩きした。
  もう戻らない時間。霜片も幸村も、二人が同じ時間を共有する喜びを噛みしめているのである。
  しかしそうした感動は、後方に見えたライトによって破られるのである。

  『群青の流星』の正体を悟った朝霞は、ある種の戦慄を禁じえなかった。
  正体が、実は身近な人であったこと、さらにはそれがサークルの先輩であったこと。
  これらのことは、もちろん朝霞には大変な驚愕に値した。
  しかし朝霞が戦慄する最大の要因は、戦いに残された機会がわずかであるということであった。
  いつまでも先輩は身近にいるわけではない。いずれは去ってしまうのである。
「このまま、勝ち逃げさせるわけにはいかない!」
  朝霞の意志は固かった。

(2)へ

「しもしゃ」Indexへ