第4章 銀狼
(1)
霜片はその日盛岡に向かっていた。
霜片の好きなアーティストが、盛岡で公演を催すからである。
東北にある唯一の100万都市仙台では、なぜかこの公演はない。最も近いのが盛岡だったので、霜片は愛車を北へ走らせていた。
距離が距離なだけに、交通費を浮かせるため同志を誘うことにしたのだが、助手席はいつもの亘理幸村ではなかった。
霜片がこういうときに助手席に座らせるのは若宮清盛(わかみや・きよもり)という男である。
若宮は音楽のことに関しては優秀であり、また霜片ともセンスが合う。
さて幸村はというと、羽生耕一朗(はにゅう・こういちろう)や推上八尋(すいあげ・やひろ)とともに、後部座席に押しやられていた。
羽生や推上は霜片や若宮と同じくコンサートに赴くのだが、幸村はどちらかというと盛岡のお食事処を探すことに魅力を感じているようである。
いずれにしても、一行が盛岡を目指していたことには変わりはない。
外からの強い日差しを受けて、幸村は目が覚めた。
「う〜ん・・・シモヒラ〜、ここどの辺?」
同じく後部座席組の羽生や推上は、まだ寝ていた。
助手席では若宮が「しもしゃ」BGMにノリノリである。
「あ〜よく寝た・・・。シモヒラ〜ノド渇いたんだけど〜。」
実はこの一行、仙台から盛岡まで、国道4号線を北上していたのだった。
したがって出発も結構早い時間であった。
若宮と同じくBGMに酔いしれていた霜片がようやく答える。
「え〜とねぇ・・・もうすぐ水沢かな?」
「あれ、平泉通り過ぎちゃったんだ。折角『ゴマすすり団子』買おうと思ったのにぃ。」
食べ物のこととなると八兵衛並みに頼りになる幸村である。
「う〜ん、でも、この時間だと、まだ売ってないと思うよ・・・。」
時計を見ると、午前7時を過ぎたところだった。
そしてその時幸村は気がついた。霜片が妙に生き生きしていることにである。
「やっぱ霜片は元気だねぇ・・・。」
「そりゃ朝だからだよ。」
そう、霜片は朝型の人間なのである。
休憩後、幸村はまた寝始め、気がついたら既に盛岡に着いていた。
おそらく寝ていたときも霜片はいつもの霜片のように運転していたのだろうが、いくらニュータイプといえども、渋滞には勝てないに違いない。
「ずいぶん早く着いたねぇ?」
幸村が疑問を投げると、待ってましたとばかりに霜片が答えた。
「だって高速乗ったもん。」
幸村は絶句した。
「それじゃあ仙台を早く出てきた意味ないじゃん!」
「だってそこに高速道路があったんだもん・・・。」
そんなこんなで盛岡に早く着き過ぎた一行は、盛岡市内を散策することにした。
「さて、まずは目的地の確認、っと。」
散策の前に目的地を確認するべく、後ろで幸村が地図を見ながらナビをする。
羽生と推上は、ついにこれまで目を覚ますことはなかった。
しばらくして当の目的地に着いた。
そこで待ち構えていたのは、『黒い異邦人』に替わった朝霞聖史と、朝霞の連れてきたサークルの面々だった。