(6)
 しかし霜片の思惑はなかなかうまくいかなかった。
 前方の敵影は、一時停止も信号も無視する戦法をとっているからである。
 ところが、こんなときに限って、第1走者には不幸が付きまとうものである。
 チェッカーフラッグを受けるまさに寸前の交差点で、右側から原チャが合流してきたのである。
 衛藤は巧みにかわそうとする。しかし相手も避けようとしているらしく、結果原チャと接触してしまい、原チャは派手に転ぶことになった。
 その一瞬の隙を霜片が見逃すはずがなかった。
「今だ!!」
 そう言うと、最後のヘアピンで極端にインをつき、非常に長いドリフトをかけて、軽の脇をすり抜けた。
 フラッグを先に受けたのは、『群青の流星』、つまり霜片は初参加初優勝を飾ったことになるのである。

 派手に転んだ原チャのドライバーは、実は石川島であった。彼は山の上の友人宅から帰るところだったのである。
 レースが終わり、急いで駆けつけてきた白銀の軽のドライバーを見て、転びながらも石川島は驚いた。
「いってぇなぁ・・・って、おまえ、雅史ちゃん?」
 自分のサークルの同期の人間である。お互いが驚き、事情を説明し、そして結論はこうなった。
「僕たち、ずっと友達だよね?」
「雅史ちゃん・・・。」
 笑えなかった。当人同士は号泣しながら熱い抱擁を交わしていた。

 一方霜片は、自分の素性が知れるのが怖くて、レースが終わった後早々に消えた。つまり事の次第について知っているのは、もはや霜片と推上しかいないのである。
 コンビニ前で推上を降ろし、ちょっと浮いている霜片には、来たるべきレースに興奮しているようだった。

(つづき)
「あれぇ? 俺たち忘れられてるんじゃないですかぁ?」
 クルマを押しつつ石津はつぶやく。
「はははっ、何でだろうな、あははははっっ・・・。」
 朝霞の声も頼りなかった。『白い異邦人』は沈没。朝霞は今後どうなるのか。
 ドラマの幕は、まだ引かれない。

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